星から落ちたくし
『これは私の詩です。』
露坊のお母さまが亡くなりました。
お月夜の晩でした。
露坊は外に出て立っていました。
お母さまが亡くなって少し淋しかったけれど泣きませんでした。
露坊のお母さまはいつも病気で寝ていらっしゃったから・・・露坊は服だって、お寝巻きだ
って、一人で着られるし、自分一人で何だって考えることだって出来るからです。
露坊は一人でススキの道を歩いて行きました。
ススキの穂の向うに一つ大きな星が光っていたからです。
このとき空からスーと光った物が露坊の前に落ちてきました。
露坊は拾って家に持って帰りました。
そして大切に箱の中に入れて眠りました。
あくる日、お母さまのお棺をお墓に持って行きました。
お墓から帰ってから露坊は箱をそっと開けて見ました。
それはピカピカ光るくしでした。
露坊はくしを持って外に出ました。
手に持っているくしが空の星と同じように、ピカピカ光りました。
露坊がススキの道を歩いていますと、向うから眞白い長い髭を生やしたお爺さんが白い
杖をついてやってきました。
そして優しく
「私と一緒においで」と云いました。
露坊はお爺さんについて行きました。
向うの山の上の大きな星が、この時も光っていました。
お爺さんは空の向うを杖で指して、
「あそこへ行こう」
と云ってスタスタと歩いて行きました。
露坊もお爺さんの後からついて行きました。
途中に眞黒い森が見えてきました。
「あれは泥棒の住んでる森だよ」
とお爺さんは云いました。
そして泥棒の眠っている間に通るから怖くないと云いました。
露坊は不思議にお爺さんの後について歩いていると一寸も怖くありませんでした。
とうとう泥棒の眞黒い森に来ました。
森の門番の木に梟のお爺さんが止まっていました。
丁度良いことにこの時、梟のお爺さんはこっくりこっくり居眠りしていましたので、お爺さん
と露坊はそーっと足音を立てないように通りました。
それにこの時、家の中の泥棒の高い鼾の音がグゥーグゥーと聞こえていましたので、ほか
の音は聞こえなかったので助かりました。
やっと泥棒の森を通り過ぎました。
次はまたススキの原っぱでした。
この時草の中からピョンと兎が出てきました。
お爺さんと兎は知り合いと見えて「お迎えに来てくれたかね。ありがとう、ありがとう。」と云
いました。
「向うの森をもう一つ越すんだよ。」とお爺さんは白い杖で向うと黒い森を指しました。
兎は先をピョンピョンと飛んで行きました。
やっと大きな森に着きました。
『これは「おとんじょうろ」という狐の住んでいるもりだよ』と教えてくれました。
狐の森には赤い綺麗な灯りがついていました。
「居るかね」とお爺さんが声をかけますと赤い提灯をつけて「おとんじょうろ」が出てきまし
た。
そして、暗い森の道を送ってくれました。
「また帰りに送ってあげるわね。」と云って、おとんじょうろは提灯の灯を振ってくれました。
ススキの原がすんでやっと大きな星に着きました。
高い石段を兎がピョンピョンと登って、お爺さんと露坊もやっと石門に辿り着きました。
石の門を開けて入りますと中にお姫様が椅子に腰かけていらっしゃいました。
お爺さんが「やっといい子を見つけて来ましたよ。」とお姫様に云いました。
お姫様は露坊の拾ったくしと同じくしを髪に挿していらっしゃいましたので、露坊は手に持
っていたくしをお姫様に差し出しました。
「これを僕拾いましたから。」といいますと、
「いいのよ。それはあなたにあげたのです。」
と優しく云いました。
そして
「いい子になるのよ。泣かないでね。一人で考える子になるのよ。」
そういってお姫様は露坊の頭を撫でて、光る玉を手の上にのせて下さいました。
露坊はお爺さんと兎と、また高い石段を降りてススキの原っぱを歩き狐の森に着きます
と、おとんじょうろは森の木に提灯をつけて明るくしてくれていました。
泥棒の森も、泥棒はまだグゥグゥーと寝入りでしたので抜き足さし足でやっと無事に通って
お家に辿り着きました。
お家の前のススキの道でお爺さんは白い杖を振って
「いい子になるんだよ。泣くんじゃないよ。一人で考える子になるんだよ。」
てまたお姫様と同じことをいって向うへ行きました。
(これは星の神秘。人はひとりと云うこと。考えることの不思議を子供の夢に、詩に書いてみました。もう私がこれを書いたのはずっと昔になります。終戦の頃でした。
これは私が引き揚げた終戦の頃、子供達を何とかして私の育った頃のような夢のある子供に育てたいと思い、あの頃の子供の読物も貧弱で私の心も貧しい悲しい時でしたので、私だけでも美しいものを見たいような気持ちで、その頃の私は最も忙しい時代でしたが、私は一寸座ってる間に書き記した詩や読物です。
今、八十二歳の私の四十年も前でございます。)
はる子
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